美鈴の学力が自分に追いつかないと悟った優は、美鈴に地元に残るように勧めた。
「距離が置けるなら地元でもいいと思ったの。そしたら、向こうは親御さんに私を監視させるつもりだったのね」
週末は優の実家に通い、母親から料理を習うように強いられた。
「私にも打算的なとこがあって。性格は細かいけど結婚相手としては優良物件だし、って。結局就職でも地元に残って、自分で自分を逃げられない環境に置いちゃった」
優は卒業後大手企業に就職を決め、落ち着いたら結婚する流れになっていた。だが優に海外勤務の話が出てからおかしくなった。
優は再び美鈴に研鑽を強いた。
英会話とマナー講座を勝手に申し込まれ、顔の整形まで勧めてきた。
「断ったらすごく怒って。なんで俺の理想通りにならないんだ、って」
「・・・・・」
「まぁ・・・良かった、別れられて」
美鈴が髪を掻き上げる。
足元の漂流物から乾いた海の匂いがした。
「あれが叔父さんのカフェ」
美鈴が岬を差す。
「あの白いの?」
「うん」
「海好きだったっけ」
「嫌い」
「え?」
「波の音。止まない泣き声みたい」
「いや、波は止めらんねぇべ」
「ふふ」
孝が手を伸ばし、美鈴の耳を塞いだ。一瞬だった。すぐに手を離し
「止まったか」
と笑う。