言葉はどこから生まれるのだろう。そしてどこに吸収されるのだろう。揉め事の気持ち悪い言葉は人間の心の中に蓄積されるしか方法がないのか。地球が誕生したのが宇宙の塵とガスの仕業だとしたら、言葉もきっと塵とガスなんだ。この大きい宇宙に飛ばしてしまえば、どこへ行ったか分からなくなるはずなんだ。
「拓斗~」
パパとママの声が遠くから聞こえる。僕は、立ち止まらなかった。多分あの声は月にだって聞こえないだろう。僕は、力のある限り走って、走って走った。でも、あっけなく、パパにつかまった。僕は中秋の名月を悲しく見上げた。悔しくも美しかった。
「ごめん、拓斗」
「もう嫌だよ。パパはママのこと嫌いなの?」
「そうじゃないんだよ」
「じゃあ、どうして、揉め事ばかりするの?」
「多分、気づいていなかった。自分を正当化するのに躍起になっていたよ。くだらないよね。自分が正直になれる相手はママだけなんだ。でも、拓斗は苦しかったね。拓斗に全部聞かれていたことに気づいていなかったんだ。ごめんね」
ママは遅れてやってきて、僕を抱きしめた。
「ごめん。拓斗。本当にごめん。そうだよね。嫌だよね」
「ママはパパのこと好き?」
「う、うん。一番近い空気みたいな存在だから、心を許してしまってたのよ」
「空気?」
パパとママは顔を見せあった。僕には分からない信号を発しているようにも見えた。
「じゃあ、これからは平和の家庭になる?」
「うん。平和の家庭にする」
ママは僕の瞳をしっかりみて答えた。
僕は、あの後、泣いたのと走ったのと、パパとママに思いを打ち明けたことで、身体が熱かった。何か冷たい物が食べたくて、コンビニへ行き、アイスクリームを買った。家に着いて、パパとママと三人で食べた。一気に身体が静かになった気分になった。