小説

『もめ太郎 1/1000ピース』山本世衣子(『桃太郎』)

 1000ピースの太陽系のパズルが仕上がった。あれ以来、揉め事にどんぶらこ、どんぶらこ、されることはなくなった。ただ、ママとパパの会話が少なくなっていった。モモの瞳は日に日につぶらになっていく。僕は、モモを優しくなでるのだけど、毛が時々もつれた。数か月経ち、パパは「拓斗、強く生きるんだよ」とだけ言い、家を出た。ママは悲しい顔はしなかった。僕を一人で育てていかなければならない責任の力をみなぎらせていた。パパは離婚届の上に、洗濯機でどんぶらこしたあの地球のピースを静かに置いていった。とある業者に、特注で作ってもらったらしい。僕はそれをつまみ上げ、心の奥から吹き出てくる悲しさの渦を感じた。涙だった。悲しさと悔しさの感情がどんぶらこ、どんぶらこ揺れている。涙でピースが塗れないように、つぶさないように、パズルにはめた。地球の青が少し違った。この不具合な色に、悲しさを伴うと共に、パパはいつでもこの地球にいることの安心感を与えた。これが平和なのかと言えばちょっと違う気もする。でも、僕はパパの言葉を胸に「強く生きる」と誓った。パパがどこにいても僕はパパとママの子どもなのだから。

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