小説

『李の家』柿ノ木コジロー(『子取り』(大分県))

 はい、物ごころついた時にはすでに、くだんの夫婦に養われておりました。
 おまえはほんとうの子ではない、まだ乳飲み子の頃、遠く離れた村はずれの道端に捨てられていたのを拾って来たのだよと常々教えられておりました。
 それでも大きくなるまではほんとうの子と同じく養っていくから安心おし、とも。

 常々言い聞かされていることもありました。

 いいか、ここは深い森のまん中で、あたりに住む者はいない。一足外に出ようとすれば、おまえはあっと言う間に森の獣に喰い殺されてしまう。決して垣の外に出てはいけないよ。

 私はおとなしく言いつけを守り日々を過ごしておりました。

 夫婦の家は粗末ともいえる平屋で、入ってすぐに小さな土間、奥には四畳半の部屋のみ。
 家は小さいのですが、庭はございました。四方をぐるりと背の高い山茶花に囲まれ、それは冬から春にかけて、薄紅の小さな花をあまた咲かせたのです。
 花の咲く頃、少し日射しがいつもより暖かな日には、眠くなるような蜂の羽音が耳鳴りのように低く聴こえてくるのでした。
 幼い頃には羽音が怖くもありましたが、なあに、李(すもも)の実のためには丁度良いのだ、と聞かされ、そのうち、慣れてしまいましたが。

 庭の隅には井戸と小さな畑、そして庭のちょうどまん中には、大きな木が一本。
 李でございます。
 梢は屋根よりも高く、枝ぶりは見事で、春には香りのよい白い花が、まるで雪のごとく大樹を覆い尽くしました。その時も蜂がたいそう寄ってきて。
 そして花が散り、夏が近づくころには、折り重なるようにこぶし大の実が成ったのです。

 元々は、小鳥が種を運んで来たのだと男に教えられました。

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