小説

『もめ太郎 1/1000ピース』山本世衣子(『桃太郎』)

 僕は揉め事から生まれた「もめ太郎」。本当の名前は川上拓斗。どんぶらこ、どんぶらこ、揺られながら、揉め事から生まれ、気づいたら10歳になっていた。
 僕を産んでくれたママとパパは、いつも何か揉めている。秋晴れの土曜日だった。パパはソファーに座り、テレビを付けっぱなしで寝ていた。パパの隣には、レトリバーで雌犬のモモが、一緒に気持ちよさそうに寝ていた。

 
 パパは「休みの日くらい自由にさせてくれ」と、土曜日の日中はテレビの前を陣取っている。平日は、帰りも遅く、一緒に夕飯を食べたことはない。本当に仕事が忙しいパパだ。パパと一緒にいられるのは週末だけ。ママは最近、近所のコンビニでパートを始め、毎日バタバタしている。

 その日、僕はその横でジグソーパズルをしていた。1000ピースだ。ママの方のおばあちゃんが僕の誕生日にプレゼントしてくれたものだった。それは宇宙のパズル。太陽系の惑星の写真が美しく個性を発していた。とても格好良いパズルだった。水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、冥王星、海王星。そうだ、冥王星は、今は太陽系に属さないらしい。でも、このパズルには入っている。

 僕はパズルをはめながら、宇宙を旅する気分になる。太陽系の大きな星に点々と光る星がまたわくわくさせた。とにかく、早く仕上げたかった。今、3分の一は終わった。地球の部分は全部で5ピース分。完成の写真を見ると、その地球の中心は日本だった。丁度、雲のかかったユーラシア大陸の地球のパズルをはめようとしたとき、ママがため息をついた。

1 2 3 4 5 6 7 8