小説

『もめ太郎 1/1000ピース』山本世衣子(『桃太郎』)

「陽君、おはよう」
「拓斗、おはよう」
「陽君はさ、将来結婚したいと思う?」
「拓斗、な、なんだよ。急に」
「ほら、新井さん、好きなんでしょ? 彼女と結婚したいと思うの?」
「お、お前、何いきなり」
「ん? どうなの?」
「お、俺はその~。まあできるなら、結婚したいよ」
「新井さんと?」
「んなもん、今分かるか!」
「ま、そうだよね。俺はさ、好きな人とかいないし、結婚したいと思わないよ」
「なんで?」
「揉め事ばっかりで、なんで一緒にいるのか分からない」
「何、お父さんとお母さん、仲悪いの?」
「仲が悪いっていうか、いつも揉め事ばっかりで」
「喧嘩?」
「っていうより揉め事」
「うちはどうだろうな、お父さん、出張でほとんど家いないから、帰ったときは、まあまあお母さんも嬉しそうにしてるけど」
「そっか」
「例えばさ、お父さんとお母さんが離婚したらどっちつく?」
「離婚? え、そんなの嫌だよ」
「だって、仲悪いならあり得るだろ」
「でも、嫌だよ」
「じゃ、その揉め事も我慢するしかないだろ」
「どうしたら平和になれる?」
「平和? どうしたらいいんだろうな?」
 陽君は平和と言う言葉があまりに引っかかったみたいで、長い事考えていたが、気づいたら僕たちはサッカーをして遊んでいた。サッカーをしていた時は、自分がもめ太郎であることも忘れていられた。

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