「おうおう、ええやないか! それでこそ、俺の家族や。あと、りきな、一つアドバイスしとくで。言うても、相手は日本一の強さをほこる秀吉のトラや。勝負は一瞬。お前がトラの檻に入れられたら、まず、体を伏せて、トラが隙を見せるのを待て。ほんで、隙を見せた瞬間、首元にガブー、嚙みついたれ」
「ガブーッ! いったるさかい!」
「いったれ、りき!」
「おうよ! なぁ、徳八さん? 一つだけええか?」
「何や?」
「今夜が、徳八さんといてられる最後の夜になるかもしれへん」
「りき……」
「やから……、一緒に布団で寝てくれへんか? 五年前に着物の懐に入れてもろた、あの優しい肌の温もり。もう一回、味わいたいんや」
「もちろん……。もちろんや。りき。おっさんみたいなコテコテの関西弁喋るけど。お前は、やっぱり甘えたの可愛い犬やな。おいで。りき」
「おおきに」
徳八は、りきを強く強く抱きしめる。りきはあの頃を思い出して、幸福に包まれた。クゥン、クゥンと甘えるりき。
「りき……。俺はお前と離れたない。お前と離れたないんや、りき」
徳八の視界がだんだんと滲んで、まわりが見えなくなる。
「りき、りき、りき……」
× × ×