小説

『太閤虎と犬』なるみ(『大阪城の中のとら』(大阪))

 役人は、徳八とりきを大阪城へ連れて行った。
 大阪城の門をくぐると、大きな石垣の下に檻がある。檻の中には、ギラギラと大きな目玉を光らせているトラ。今日のご馳走の犬が来るのを待っている。
 役人が、徳八の手から、りきを引き取り、檻の中に放り込む。
 放り込まれたりきはじっと体を伏せて、トラを睨む。
 いつもと様子が違うと、一瞬ひるんだトラ。
 瞬間、りきはトラの首根っこ目がけて飛びかかる。
 見事に首に噛みついたりき。
 振りほどこうと、トラは必死に暴れまわる。
 放すものか、と噛み付いたままのりき。
 『ウオー、ウオー!!』と叫びながら、やっと、りきの体を前足の鋭い爪で捉えたトラ。今度は、トラが、りきの首に噛み付く。
 そして、爪で八つ裂きに。
 りきは、力尽きて、ぐったりと倒れ息絶えた。

一方、トラも深い傷を負い、首から血がドクドクと垂れて止まらない。
これを見た役人は真っ青になり、トラを助けようと檻を開けて中に入る。痛みに耐えられなかったトラは、役人を振りほどいて、檻の外へ、バーっと
飛び出した。
『ウオー、ウオー!!』と叫びながら、発狂したように大阪中に首から流れる血を撒き散らしながら走り回り、船場、島之内を抜け、最後は力尽きて、道頓堀川に身を投げた。
川の色は、だんだんだんだん、トラの血で真っ赤に染まっていった……。

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