小説

『太閤虎と犬』なるみ(『大阪城の中のとら』(大阪))

 徳八は走って、りきの元に駆け寄った。
 りきを抱きしめる徳八。
 「りき! りきィィ! ようやった! お前はようやったぞ!」

 これを見ていた役人が一層目つきを鋭くして吐き捨てる。

「徳八! どういう事じゃ! 犬の罪は飼い主の罪! こっちへ来い!」
その後、役人は、徳八を縛りあげて連れて行った。そして、徳八は、トラ殺しの罪人として処刑された。

犬を飼っていた大阪の人々は、トラが死んだことに、大変大喜びして、天満の町の片隅に英雄「徳八」と名犬「りき」の墓をたてて、祀ってやったとか。

     ×   ×   ×

 時を超えて、令和4年。
大阪城には、国内外からたくさんの観光客が訪れる。
大阪城の門をくぐったところに、観光客の親子連れ。

「へー! お父さん、面白い話だよね。この大阪城に生きたトラがいたんだね。大阪観光に来て、そんな話聞けたら面白いよ」
「そうだろ、大輔。昔の説話や民話に想いを馳せながら観光地を回ると、また一味違った旅行になるんだ」
「でも、お父さん。今も昔も、やってることは一緒だよね?」
「どういう事?」
「豊臣秀吉が飼ってたそのトラは、日本一強いトラだったんだろ?」
「そうだな」
「今も昔も。日本一のタイガーは、道頓堀川に飛び込むんだね」

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