カンダタは頭を垂れたままそう言いました。閻魔大王にも釈迦如来にも見えないカンダタの顔は楽しそうに笑っていました。ただ、声だけは神妙そうに装っていました。
「釈迦如来よ、なぜ地獄の罪人を気まぐれに救おうとした。越権もはなはだしいではないか。貴様がやった事はオレの裁きを傲慢にも無視し、さらにこの世界の秩序を破るものである。大御神様の裁きを受けてもらう必要がある」
閻魔大王はいつも地獄を極楽から見下ろしている釈迦如来が気に入らなかったので、ここぞとばかりに責めました。
「話は聞きました。確かにこの件は、わたくしの裁きが必要ですね」
どこからともなく、か細い声が聞こえてきました。か細い声とは裏腹に凄まじい威圧感のある光が輝いています。閻魔大王は大慌てでその場にひれ伏して言いました。
「天照大御神様、閻魔でございます。お裁きの件、よろしくおねがいします」
「釈迦もよろしいですね」
はるか頭上の極楽から声が聞こえてきた。
「もちろん、おおせに従いますとも」
すっかり元気を無くした釈迦如来の声だった。
「では、後ほど二人とも呼び出します。それまで待っているように」
閻魔大王や釈迦如来の返事を待たずに光は消えました。カンダタは血の池で呆然と立ったままそれを見ていました。