小説

『蜘蛛の糸 その後』門外不出(『蜘蛛の糸』)

 カンダタの輪廻転生が決まり、極楽を去る日が来ました。カンダタは閻魔大王が指定した場所に行きました。大きな菩提樹の下です。
 カンダタがそこに行くと閻魔大王と弥勒如来がひれ伏していて、二人は声を合わせて言いました。
「これまでのご無礼をお許しください」

 カンダタが不思議そうに二人を見ていると、弥勒如来が顔を上げずに言いました。
「迦毛大御神様、お戯れも程々にお願いします。我らは職務に邁進し、ゆめゆめ慢心せぬよう勤めてまいります」
 カンダタは何も言わず弥勒如来を見ています。

「迦毛大御神様。先のお裁きの前に天照大御神様が見えられました折に、あなた様はひれ伏さず立ったままでしたが、天照大御神様はそれを咎めませんでした。そのような立場でいらっしゃる方は、迦毛大御神様以外には伊邪那岐大御神様しかいらっしゃいません」
 ひれ伏したまま、閻魔大王が引き継ぎました。

「伊邪那岐大御神様は黄泉の国に行かれて、まだ戻られていません。あなた様は迦毛大御神様に違いありません」

「……よくわかったな」
 カンダタの姿は、鍬を持った農民の姿に変わっていました。

「それが本来のお姿ですか」
「大御神に姿なんて無いが、俺は麦作の神だ。俺が気に入った者の姿形だ。……不満か」

 大御神の怒気を含ませた物言いに逆らえるはずもありません。弥勒如来が慌てて言いました。
「めっそうもございません。我らは相手の姿形に囚われることなく、職務に勤めておりますから」
「……言いたいことが無いわけではないが、弥勒の言を良しとしよう。俺は輪廻転生し、再び人間界に行くとする。あそこは面白い。それで良いな」
「おおせのままに」

「出すぎた答えだな。俺は天照に言ったのだ」
「意地悪すぎますよ、迦毛」
 突然の天照大御神の出現に、閻魔大王と弥勒如来は再びひれ伏しました。

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