小説

『蜘蛛の糸 その後』門外不出(『蜘蛛の糸』)

「もう少し自分の立場を考えなさい」
「少しくらいいいじゃないですか、天照」
「ダメです。大御神としての振る舞いではありません。自重しなさい」
「わかりました、気をつけますよ。では行ってきます」

 閻魔大王と弥勒如来がそっと顔を上げると、迦毛大御神は逃げるように輪廻転生していきました。

「行ってしまわれた」
 弥勒如来がつぶやくと、天照大御神の声が聞こえた。

「閻魔に弥勒。地獄にいる釈迦にも伝えて欲しいのですが、迦毛は人間界に再び転生しました。どういった姿で何をするのか私にも全く予想ができません。いずれにせよ再び死すれば、ここか地獄にやってきます。そのときには判断を誤らぬよう気をつけることです。2度目の失敗を迦毛は許しませんよ」

「極楽も地獄も、今回の様な不祥事を起こさぬよう職務に邁進します」
 閻魔大王がそう答えると、天照大御神が去り際に一言残した。

「迦毛だけでなく、私も見ていますからね」

 何もかも、わかっていたんだ。
 閻魔大王と弥勒如来は天照大御神の気配の消えたあたりを見ながら、身震いが止まりませんでした。

 しかし極楽の蓮池の蓮は、少しもそんな事には頓着致しません。その玉のような白い花のまん中にある金色の蕊からは、何とも云えない好い匂が、絶間なくあたりへ溢れて居ります。極楽ももう午に近くなったのでございましょう。

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