呆然としたまま車まで戻って、凍りついた。
歩道に気をつかい過ぎて、俺も端とは言え、空き地の中に車を停めていた。そして、車は沈み始めていた。
俺は静かにドアを開けて音を立てずに車に乗り込んだ。
一度大きく息を吸って、吐いてから、ゆっくりとエンジンスイッチを押す。
軽やかな音とともにすぐに車は息を吹き返した。しかし、やはりなんとなく姿勢が右前側に傾いている。
焦る気もちとは裏腹に、俺はおそるおそるアクセルを踏む足に力を入れた。
体が前のめりになっていたせいか、アクセルを思いのほか強く踏みつけた。
車は咆哮をあげて前につんのめり、はずみで俺は顔をしたたかハンドルに打ち付けた。涙でにじむ目の前に、もう、土が迫っていた。
沈むスピードが上がっている。
胃からイチゴではない酸っぱさがこみ上げる。俺はただ、ハンドルにしがみついて身を固くした。
ガラス越しに下から視界が暗くなっていく。圧のせいか、車体があちこちからおかしな音を上げ始めた。
沈む、沈んでいく。ゆっくりとではあるが、身体が下がっていく感触に、俺はめまいを覚えて今にも吐きそうになり、固く目をつぶった。
急に、尻に強い衝撃を受けて座席から身体が軽く浮き上がった。天井に頭をぶつけ、また尻を打つ。
しかし、どうやら車は『落ち切った』らしい。
何か硬い地面の上に、やや前のめりに停まっている……下り坂のてっぺんのような場所に。
あたりは薄暗い。フロントガラスはヒビと泥汚れのため、前がほとんど見えていない。しかしエンジンはかかったままだ。
俺はシャワーボタンをひねった。ワイパーがぎくしゃくと動くうちに、ようやく視界が半分ほど蘇った。
下り坂になったトンネルの中のようだ、そこまで気づいて、ぞっとした。車が滑るように前進しているのだ。最初は気づかないほどだった速度が徐々に上がっているのに気づいた。
ブレーキが利かない、速度は上がる一方だった。
すぐ目の前に赤いブレーキランプが迫り、俺は焦ってハンドルを切った。泥で真っ黒だがさっきの白いバンのようだ。俺はそいつを追い抜き、更に目の前の一台を認めた。多分親子の乗った車だ。かなりのスピードだが、俺も似たようなものだ、あまり遅れずに俺の車はその後を滑走していった。
トンネルじみた幅広の道、前方にようやく明るさがみえてきた。ぐんぐんと明るさは増し、ついに視界が真っ白に変じた時、また、衝撃を覚えていっしゅん意識がとんだ。
