小説

『ヨコシマ太郎』木暮耕太郎(『浦島太郎』)

たこ焼きとラムネ瓶を抱え、階段を上る。
「姉ちゃん!」
「良平、遅いよ。蚊、すごいんだからさー。・・・玲二くん?」
「よっ!あ・・・浴衣、う、美しいね」
「ワードセンスっ!なに、うつくしいって!」
ももりがケラケラと笑う。
「もー、いじるなよ!」
ドーーーーーん!!パラパラパラ・・・ももりが照らされる。僕はこのシーンを一生忘れないだろうと静かに思った。少しの間、幸せな静寂が流れた。
「食べよ!たこ焼き」
ももりが袖を引っ張る。こんなに仲良かったかな、と少し思ったがどうでもよかった。
花火を見ながら、良平が先ほどの事件を少し盛り気味で話した。
「・・・すご。ありがと・・・」
二人に尊敬の眼差しを向けられて悪い気はしなかったが、何しろ照れ臭かった。
「あー、良平、まだ体育の教師はアオキ?」
学校の話題に話を替えて、たこ焼きを食べながら、花火を見ながら楽しい時間が過ぎていく。
(この後はメインイベント、極大スターマインです)
少し遠くの方からスピーカーの声が伝える。もう終わってしまうのか、と素直に思う。
「おれ、ちょっと甘いもの買ってくるよ!」
良平がサッと立ち上がった。
「あ・・」
呼び止めようとする僕に、意味深な目配せを送った。
二人になると、僕が一方的にだと思うが意識してしまい会話がうまく続かなくなる。
このチャンスを活かしきれない自分が不甲斐ない。
オレンジの光がももりの美しい姿を映えさせる。
ドーーーーン!!!極大の花火が大輪を咲かせる。
「きゃっ!」
ももりが僕の方に身体を預けてきた。
「え!?」
「あ、蚊が耳元で・・・」
咄嗟に僕は触れた手を握った。
「あ・・・」
ももりがそっと目を閉じる。え・・・?どういうこと?でも、今しかない。
今日の僕の行動力はどうかしている。
ももりを抱きしめて唇を重ねた。
唇からも腕からも、彼女のものなのか、僕のものなのか、脈が伝わる。
そのまま静かに手をつなぎ花火を見た。
「私ね、中学の時、玲二くんのことずっと見てた。好きだったの。」
「え?も・・・神崎が?」
「ももりでいいよ。ねぇ、私と・・・」

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