小説

『ヨコシマ太郎』木暮耕太郎(『浦島太郎』)

「先輩、その、ありがとうございました・・・」
良平が頭を下げる。
「玲二くん、ありがとね」
ももりが財布を拾ってくれた。ダサい、ダサすぎる。
「大丈夫?」
ももりの手が僕の手に触れて、近づいた距離に僕の鼓動は早くなる。
「あ、うん。」
「・・・じゃ、じゃあ、私たち行くね。また学校で・・・じゃね。」
(え、行っちゃうのかよ)
その言葉は声にならず、僕は見送ってしまった。
その後、野郎ふたりと合流して、夏祭りは楽しんだが、家に帰って床につくと溜息しか出なかった。あのとき、どう立ち回れば良かったのだろう。
・・・

「あれ、神崎の弟じゃね?」
そうだ、ももりの弟の良平だ。壁に詰められている良平を見て、僕の中に熱い正義感のような気持ちが湧いてきた。こんな体験、初めてだ。
「おれ、ちょっと行ってくるわ。」
「え、ちょ、お前、マジかよ!」
狼狽する二人を後目に、僕は突進した。
「りょーーへーーーい!」
長身のやつの背中に勢いよく肩タックルを食らわせてやると、長身は悶絶してしゃがみこんだ。
「な、なんすか。え・・・、誰すか」
ブリーチ短髪は状況が呑み込めず泡を食っている。
「ってぇな・・・てめぇ」
長身が怒りに顔を歪ませる。こういうときは先手必勝だ。
「すいませーん!誰かー!」
僕は大きな声を人混みに投げかけた。視線が集まる。
「くそが!」
不良たちは捨て台詞を吐いて退散した。あっという間の出来事だったが、物凄く長くかんじた。
「せ、先輩、ほんと助かりました!ありがとうございます!」
「いやぁ、どうしたのよ」
「なんか、たこ焼き買おうとしたら難くせつけてきて、あるだけ金出せとか」
良平の声は少し震えている。怖かったのだろう、僕も今になって実は膝が笑っている。
「まぁさ、たこ焼き、買おうよ」
「は、はい。あの、よかったら、神社の境内のほうに姉ちゃん待たせてるんですけど、一緒に花火みませんか?」
「お、まじか、じゃあお言葉に甘えて。」
なるべく平常心の素振りで返したが、とんでもない僥倖だ。石田と水野にLINEを送る。『さらばだ、野郎ども。ネクストステージにいかせてもらう。』
・・・

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