小説

『ヨコシマ太郎』木暮耕太郎(『浦島太郎』)

「あれ、神崎の弟じゃね?」
たしかに、二人の不良に詰められているのは髪型こそ変わっているが、ももりの弟の良平だった。多分中3、他校のやつらだろうか。良平と目が合い、僕のことに気づいたようだ。くそ、仕方ない。
「・・・ちょっと行ってくるわ」
「え、ちょ、お前、まじかよ。」
「む、向こうの方行ってるわ・・・」
水野と石田は気まずそうな表情でとぼとぼと離れた。

「良平!」
僕は5メートルくらい手前から声をかけた。
「あー・・・」声をかけたものの、その後の言葉が続かなかった。
「は?ナンスか?誰すか?」
ブリーチの短髪が片眉をあげてメンチをきってくる。
「こいつの代わりにちょっといい?」
タッパのあるやつが腕を回してきた。
「先輩、すんません!ちょっと・・・!」
不良たちの気が僕に向いている隙に良平は間を抜けて走り出してしまった。
「だっせー!見捨てられてる!」
不良たちが腹を抱えて笑う。
「ま、ちょっと向こう行こうよ」
長身が腕を回したまま、裏道の方へ誘導した。花火の光が影をつくる。
「あいつがさ、おれらの前に割り込んできたのよ」
「先輩?なんでしょ、あいつの。ね、どうすんの?どうしましょうか?」
僕は下を向いて黙った。
「せんぱーーい、なんとかいってくださいよぅ」
また不良がケラケラと笑う。
「花火始まっちゃったじゃんよー」
「大人になったらもめごとはお金でしょ、はい、センパイいくらもってんの?」
不良が僕の懐に手を突っ込み、財布を抜き取った。
「千円あったらおうちかえれる?諭吉でいいよ。はい、毎度。」
財布を僕の足元に投げ捨てて立ち去ろうとした。
「おい!何してんだ!」
おまわりと、良平。そしてももりを花火の光が照らす。
「やべ!」
不良たちは一目散に逃げて行った。
・・・

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