小説

『ヨコシマ太郎』木暮耕太郎(『浦島太郎』)

白い水蒸気の中で目を覚ます。
ああ、そうだカプセルに入っていたんだ僕は。
老いた手で頭についたいくつかの電極を外す。
カプセルの蓋が開けられてショップの店長が覗き込んできた。
「どうでした?ヨコシマ太郎の体験版は。」
「うーむ、体験版であそこまで遊べるとは、悪くないな」
「どうされます?」
「買いだ、買い!老後の楽しみに死ぬまであの世界観に浸ってみるのも悪くないわ!」
僕はゲラゲラ笑いながらポケットからくしゃくしゃになった諭吉を取り出した。
まだ、玲二の感覚が少し残っていて、竜宮城で支払った壱万円の感情を思い出して、なぜだか少し自分が汚れた気分になった。

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