小説

『長靴にはいった猫』洗い熊Q(『吾輩は猫である』)

 吾輩は長靴に入った猫である。
 名前はニャー助を名乗っている。これは主人様が付けてくれたニャなのである。
 なぜ吾輩が長靴に入っているのか。
 それを知って貰うのに、ちょっと長い話に付き合って貰わなければにゃらない。

 うちの主人だが美人である。
 お世辞抜きに綺麗だと吾輩は思っているが好みはそれぞれ。猫で言うところの鼠が大好物だっているし、ドライフードのカリカリが好きだってにゃつもいる訳だしな。
 そんな美人の主人だが吾輩の前ではとても優しい。偶に主人の友達が家に来るが、その時はちょっと吾輩の前では見せない感じの雰囲気を出している。
 少し生意気というか人が言うところのツンデレ? そんな猫被んなくていいのにと見ていて思ってしまうが。
 まあ吾輩だけになると何時ものとてもとても優しい主人に戻るがな。
 そんな主人が大好きなのはオシャレである。とにかく沢山の服を持っておられて、吾輩の前ではよくファッションショーだと言って色んなご主人を見せてくれてる。
 特に主人が気に入っている物は靴なのだ。
 でもそれは沢山は持っておられない。服は沢山あるのに、どうも主人は本当に気に入った靴しか履かない。
 そして特に気に入っている靴がある。それが吾輩が入っている長靴だ。
 この長靴は主人が特に綺麗な服を着た時に履いて行く。というか、この長靴に服を合わせていると吾輩は思う。ま、正直に言えば人間が着る服など目がチカチカする程度の差しか吾輩には分からない。
 だからこの長靴を履く時は、どうしても雰囲気は余り変わり映えしないように思えるがな。
 さて、何で吾輩がこの長靴に入る様になった核心を話すとしよう。
 まだこの家に来たばかりの吾輩の幼い時。その頃の主人は特に可愛がってくれた。
 散歩にもよく行ってくれたものだ。ただ今思うと、首輪に紐を付けて連れ出すのはどうもと幼い頃でも思ったが。
 でも楽しかった。本当に嬉しかったのだ。
 しかしそれも段々と回数が減って行き、構ってくれた主人もあの長靴を履いて出掛ける事が多くなった。
 寂しくなった吾輩。そして当時の幼い吾輩は考えた。最初あの長靴を壊してしまえば出掛けられないと思ったが、それだと主人が悲しんでしまうのは目に見えている。
 ではどうしたものか。そこで思い付いた。
 吾輩が先に履いてしまえばいいんだと。にゃんと良いアイディアだ。これなら悲しませないし、散歩とは行かないまでも主人は吾輩と一緒に居てくれる事になる。
 その頃の吾輩はまだ小さかったから、よっこらせと長靴に頭から入れば中でへっこらせと回れる。それでひょっこりと頭を出して出掛ける主人を待っていたのだ。

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