小説

『まちがった林檎と水曜日くん』もりまりこ(『白雪姫』)

 白井は父親とのこのまだるっこしいやりとりに飽きてしまって、バリリと模造紙のような紙を破った。
「芳雄。お前ってやつは、そうやって考えもなしにいつも、先走る」
 白井がその包みを破った途端、あたりのなにかが反射したような気がした。
「今、なんか光ったか? それは鏡か?」
「いかにも、鏡だね」
 それは姿見の鏡だった。
「親父、言葉って怖いんだぞ。この前の林檎の時、親父が毒林檎かもしれないとかいうからさ、こうやって鏡が届いちゃったんじゃないの?」

 鏡が白井家に届いた日。
 白井の父親は返さないと誰かが困ってるかもしれないからとか。
それか新種の詐欺で袋を開けた途端に、見知らぬ誰かから電話がかかってきて、よからぬ道を歩むかもしれないって、本気で心配してた。
 じゃ、警察に電話してみる?
 って言うと、それは面倒くさいと父親が答えるので、その鏡は居間の壁に立てかけて置くことにした。

 鏡まちがい置き配事件から数日たったある日。
 電話がかかって来た。親父はまだびくついていたけれど、白井が電話口に出ると、アルバイト志望の学生君たちだった。
 それから、時間を置いて電話は7本きっかりかかってきて、それで途絶えた。

「親父、面接どうすんの? バイト君たち」
 そう聞くと、ひとりで親父が笑ってる。
 壊れた? って思いながら気持ち悪いな思い出し笑いすんなよ、死んだお袋も嫌がってただろうって言うのに、ひとりツボにはまったみたいに、背中をひくひくさせているので、放っておいた。
「芳雄、ここまで来たら俺たち2人家族をさ、誰かからかってんな。お前がまちがった林檎を食ったからまちがった鏡が届いて、それからしばらくしたら7人のこびとさんたちだよ。それって、現代の白雪姫じゃないか。おかしいだろう?芳雄?」
 白井の父親もなにかこの状況を楽しみだしていた。

 バイト君たちは、きっかり7人だったけれど、みんなが一斉にバイトしてもらうとなると、狭いし密だからってんで、ひとりずつきてもらうことにした。

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