ほんとうになにもいうことがなくなって、どうするってなってるなここ最近の俺はって、白井は心の中で呟いた。空白を埋められない日々。
なにもすることはないのに、腹は減るんだよってもういちど呟いた。
テーブルの上には、でっかい林檎の写真が写されたポストカードのようなものが斜めに置いてあって。
立方体の箱の下敷きになっているらしいそのポストカードの左端は、折れて白っぽくなっていた。スターキングの林檎の写真。
こういう雑な、扱い方は親父だなって思いながら。
まぁ、俺と親父しかいないんだけどって思いつつ。
箱の中身を覗き見る。
そういえばこのあいだの王林、あれはさくっと感とひかえめなテイストに好感が持てて、おいしかった、単純に。盛ってやろうみたいな、ところなくっていいよな。
そう言いながら、さくさく口の中で心地よい音響かせながら黄緑色の林檎を喰っていたのは、雪夫だった。
雪夫は、ほんとうに色白で、女子からも雪くん、なんかお手入れとかしてんの?
って質問攻めにあっていた高校生の頃を思い出す。
白井が心の中で、俺だけが知っているんだよあの頬のすべすべ感はとかって夢想している時に限って、女子の誰かにみつかって、白井、なに?
笑ってるよ、なにげに。
って指摘してくる。笑うとこじゃないんだけどぉって、言い放つ。
笑ってねえよって答えながらも、ちょっと不機嫌風の表情してみせて、雪夫のを盗み見る。不機嫌そうだったのは雪夫の方だった。
なんか怒ってる気配の時は、ほんとうにおまえなんかあっち行けって目じりが語ってる。
その眼差しをみないように、白井は見る。まぎれもない雪くんだった。
腹減ってんだから、親父の林檎かもしれないけれどま、いいかって、箱を開けてその林檎を喰った。
まさに、スターキングの味じゃんとかって適当なこと思いつつ、口中にさわやかな香りを漂わせてたら、背後から声がした。
「芳雄、バカ。それ、おまえ、え?」
急に背中から先攻くらって振り向いた時には、親父の土臭い指から林檎がはく奪されようとしていた。
「なんだよ、お帰りぐらい家えよ。なに? これ喰っちゃいけないの?」