小説

『まちがった林檎と水曜日くん』もりまりこ(『白雪姫』)

 白井の父親は、みどり商店街でしがない果物屋を経営している。
 たまに、新作の果物が知り合いから送られてきたりするから、白井はなにも不都合を感じなかった。
「おまえ、知らないぞ。その林檎。喰ったのか? どこか苦しくないか?」
 え? 白井は父親の顔を覗き見る。
「おまえは、ちっちゃい頃からテーブルの上にお菓子とか包み紙とかが置いてあると、ばりばり破ってさそうやって、何も言わないで喰っちまうんだよ、いっつも」
「いいよ、そんなガキの頃の話は。だから、どしたの? これ」
「置いてあった。置き配で」
「じゃ、いいじゃんか」
「だから、置き配頼んでいないのに、置き配されてたんだよ、その箱が」
「嘘。うそ、まじ?」
 リアリィ? シリアスリィ? ってな気分なのに、咬んでいたらなんかすごくうまくて、親父の慌てようも、気にならなくてまだ白井はそれを口に運んでた。
「芳雄、だからそれに毒とか入ってたらどうするんだよ」
 白井は、吹き出しそうになる。
「毒って、毒林檎か? 白雪姫かよ」
「俺は知らないぞ。夜になって救急車騒ぎになっても。ほんとに一応、正露丸飲んどけよ」
 ほんとに毒だったら正露丸は聞かないだろうと思いつつ。
 父親は騒ぐだけ騒いだ後、ほんとうに息子の身体のことを気にしてるのかどうかなんて怪しいぐらい、そそくさと早めの就寝をしに寝室に向かった。
 それはいつものことだった。

 それから2、3日経った頃だった。
 再び置き配。またもや間違った置き配が届いた。それは、とても大きくて、返そうと思ったのに差出人の住所もなにもなくて、途方に暮れた。
「親父、どーするよ」
「その包みに耳あてて聞いてみろ?」
「耳? なにを聞くの?」
「だから、カチカチっとかチクタクとかさ」
 白井はまたもや吹き出しそうになった。
「時限爆弾的なこと? 俺んちが? そんな、ないない」

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