小説

『まちがった林檎と水曜日くん』もりまりこ(『白雪姫』)

 月曜日くん、火曜日くん水曜日くんって具合に。

 みんな人付き合いはちょっと苦手そうだったけれど、やさしい子たちだった。
 父親が少し思い段ボールを運んでる時も、すぐに手をかしてくれる機敏さと気遣いもあわせもったようで、父親は満足していた。

 水曜日くんが、バイトを終える時白井も近くのコンビニに立ち寄りたいから、ちょっと一緒にそこまで歩いた。

「みどり公園のあの看板で、バイトの募集って貼ってあったから来て見たんです」
 水曜日くんは、屈託なく笑う。
 屈託なく笑うとはこういうことか、そんな笑い方だった。
 その眼差しをみていたら、雪夫の眼のことまで思い出しそうになっていた。
 みどり公園から、5分もしないところに白井果物店はあった。
 自転車を押しながら水曜日くんは、あの看板ですよって指さした。
 ずっと見てたら白井さんの果物店のバイト募集が目について。
 そう言いながら水曜日くんは、ゆっくりと自転車を押していた。

「知ってます? なんか噂になっててこの公園」
「噂? ってなに?」
「ほら、あの看板にちょっと逢いたい人のことを書くと、ほんとうになるって。いかにも都市伝説っぽいでしょ、誰かがツイートしてて」
 打ち解けたのか水曜日くんは、人懐っこい感じで喋り続ける。
 不思議な話は生まれて消えるものだから、ふーんって言いながら白井は水曜日くんを見た。問いかけようとしたら、彼は何かを察したのか、顔の前で手を振った。
「俺は、そんなの信じてませんよ。でもね、伝言板って昔はあったんでしょ。レトロでいいなって。SNSとかじゃなくて、伝言板に何か書いたら誰かに何かが通じる、通じるっていうか通じた気がするっていうのが、なんかいいじゃないすか」
 早口でそんなことをいうと水曜日くんはそわそわしだした。
「電車、最終なんで、お疲れっす」
 水曜日くんは、自転車にかけ乗ると手だけ降ってベルを鳴らして去って行った。

 白井はその看板の前に立った。
(黒猫のとらじろうに会いたいです。天国では迷い猫になっいませんか)
(かなえばあさんは、庭仕事が好きでしたね。かなえ、どうだそっちは。君が育ててくれた泰山木が、今年も白い花を立派に咲かせたよ、じいさんより)

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