小説

『望み』小山ラム子(『シンデレラ』)

 被服室からはカタカタというミシンの音やおしゃべりの声が聞こえてくる。恐らく部活中の手芸部の人達だろう。深呼吸をしてからドアをノックしようと片手をあげた。
「なにしてんの?」
 驚いて振り返る。そこにいたのは同じクラスの小早川さんだった。
「なんかの衣装?」
 小早川さんはそう言いながらわたしが抱えているものを見た。
「う、うん。あの、文化祭の」
「クラスの喫茶の?」
「うん、そう。せっかくだから手作りしようってなって。小早川さんは?」
「わたしはキッチン担当だし、エプロンで十分」
「あ、そうか……」
 高校に入学してから五か月ほどたった今でも、小早川さんはどう接したらいいのか分からない人だ。小早川さんは教室ではほとんど一人でいる。
「で、ここで作りたいの?」
「あ、うん。家のミシンが調子悪くて。もし被服室の使えたらなと思ったんだけど先生がいないみたいなの。だからとりあえず手芸部の人に聞いてみようと思って」
「ふーん。じゃあ部長に聞いてみるよ」
「え?」
「わたし手芸部だから」
「あ、そうなんだ」
「部員も少ないしミシンも空いてるよ。ほら、入りな」
「う、うん」
 中には五人の女子生徒がいた。三人は刺繍や羊毛フェルトをしていて、二人はミシンで服を作っているようだ。
「すみません。この子ミシン使いたいみたいで。いいですか?」
 刺繍をしていた一人に小早川さんが声をかける。この人が部長だろう。わたしも挨拶をしなければ。
「あの、お願いします」
「全然いいよー好きにつかって」
「ありがとうございます!」
 今度は小早川さんの方を向く。
「小早川さんもありがとう!」

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