小説

『望み』小山ラム子(『シンデレラ』)

 小早川さんは笑ってひらひらと手を振った。
「おおげさだな。別にいいよ」
 教室で一人でいるのは他人に気をつかいたくないからなのかと思っていたが、そんなこともなさそうだ。他人にも堂々としているし、一人でもいられる。教室での自分の姿を思い浮かべ、ため息をつきそうになっていた。

 背伸びをして首を回すとゴキゴキと音が鳴った。まだ一着目の三分の一ほど。これがあと二着ある。そもそも最初は三人で一緒に作ろうと言って材料を買いに行ったのだ。どうしてこうなったのだろう。いや、今更言っても仕方ない。
「三着もあるの?」
 いつの間にか小早川さんが近くに来ていた。
「うん。友達の分もあって」
「自分でやらせればいいじゃん」
「部活や塾で忙しいみたいで」
「ふーん」
 そう言いながら小早川さんは自分の作業場へと戻っていった。机の上には作業途中のパッチワークが広がっている。
 他の生徒はおしゃべりをしながらの作業であるが、小早川さんは一人で黙々と取り組んでいるみたいだ。その手さばきに見とれてから、自分もがんばらなきゃ、と気合を入れて続きにとりかかった。
しばらくしてから家庭科準備室をのぞいてみる。先生が戻っていたので、明日からもミシンをつかう許可を得た。部長にも声をかけたほうがいいだろう。
「あの、すみません」
「ん? どうした?」
 部長が手を止めてこちらを見る。
「先生には許可をもらったのですが、明日からもミシンを使わせていただいてもいいですか?」
「ああ、全然いいよーっていうかさ、手芸部入りなよ」
 突然の誘いに驚いていると、部長の側に座っていた女子達もうんうんと頷いていた。
「真理の友達なんでしょ? 名前なんて言うの?」
「あ、えと、宮島希美です」
「よろしくね。真理も希美ちゃんに入ってほしいよね」
 小早川さんが振り返る。眉をひそめていた。
「いや、別に友達じゃないですけど」
「あれ? 連れてきたんじゃないの?」
「偶然会っただけです」

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