小説

『望み』小山ラム子(『シンデレラ』)

 またもやいつの間にか小早川さんは背後に立っていた。
「うん。つけてほしいって言われて」
「そのくらい自分でつければいいのに。宮島さんこんなにがんばってるんだからさ」
 ぐっ、と喉に言葉ではないものがつまった感覚がした。嫌なものではない。気を抜いたら泣いてしまいそうなものだ。
「前から気になってたんだけどさ。前髪邪魔じゃない?」
「え?」
「これ。余ったので作った。あげる」
 渡されたのは和柄のキルトでつくった花が先についているヘアピンだった。自分にはもったいないかわいさだ。
「え! いいの?」
「いいよ、別に」
「ありがとう!」
 早速つけてみる。小早川さんが「うん、似合う似合う」と満足げに頷いているのが照れくさい。
「前髪だしてたほうが似合うよ」
「そうかな」
「せっかく目ぱっちりしてるんだから。隠してちゃもったいない」
 さっきの感覚。お腹の中でじんわりとあたたかいものが広がっていく。
「それ手伝おうか」
「え?」
「大体もう形は分かるよ。ボタンとか付ける位置も一緒に考えさせて」
「いや! そんな悪いよ!」
「別にいいよ。わたし自分のはもうほとんど終わったし」
「でもこんなもらってばっかで……」
 小早川さんがふっと笑う。亜季や瑠花の笑い方とはちがう、と思った。
「やりたくてやるんだからさ、気にしないで。それにさ、わたしだってもらってるよ」
 どういう意味だろうかと思ったそのとき。
「失礼しまーす!」
 勢いよく被服室のドアが開いた。そこにいたのはクラスメートの金井くんだった。
「遅かったじゃん」
 話しかけたのは小早川さんだ。
「テニス部でもやることあってさ」
 事情を飲み込めずに二人を交互に見ていると、それに小早川さんが気付いてくれた。
「金井は手芸部も兼部してるんだよ。ほとんどテニスのほうでてるんだけど、足ケガしてでれないからって今日は手芸部なんだって」
 更に驚いていると金井くんもこちらを見た。
「宮島さん? 手芸部はいったの?」
「え? いや、わたしは今だけ」

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