小説

『望み』小山ラム子(『シンデレラ』)

 恥ずかしくてうまく言葉がでてこない。一方、小早川さんは気楽な様子だ。
「これ手伝ってよ。宮島さん達の喫茶の衣装なんだってさ」
「お、やるやる。あ、待てよ。クラスの女子の衣装とか俺が手だしても大丈夫?」
 頷くので精一杯だった。
 金井くんも加わり三人で作業を始める。緊張しつつもうれしかった。誰かと作業をするのは久しぶりな気がする。
「宮島さんさ、なんか雰囲気ちがうなと思ったら前髪か」
 金井くんの真っ直ぐな視線に思わず顔を背けてしまった。
「あ、変って意味じゃないから! むしろそっちのがいいし! ヘアピンもそれセンスいいな」
「わたしが作ったヘアピン。宮島さんに似合いそうな布あったから」
 小早川さんは「ふふん」とうれしそうだ。あれ? でもこれは確か余ったので……いや、もしかして。
「これわたしのために作ってくれたの?」
 小早川さんが「あっ」というような表情をする。だけどすぐに「うん、まあ」と笑ってくれた。
「え、なに? 最初は『余った布で作ったから』とか言ったの? 素直じゃねーな」
「うるさい」
「え、ひどくね?」
そのやり取りに思わず噴き出すと、二人も一緒に笑ってくれた。
 楽しい。だけど二人と一緒にいられるのは今だけだろうとも思う。小早川さんは教室では一人でいるほうがいいだろうし、金井くんはいつも人に囲まれている。
 しばらくしてから洗面所に行き、鏡にうつる自分を見た。
 やっぱりこのヘアピンは自分なんかにはもったいない。そんなことを思うわたしは、あの二人には不釣り合いだ。

 部活が終わってから教室に忘れ物をしていたことに気が付いた。二人にお礼を言ってから教室へと向かう。
「希美!」
 呼びかけられて足を止める。そこにいたのは瑠花だった。
「さっきさ、金井くんと話してたよね」
「え? あ、うん」
「なんで?」
「えっと、金井くん手芸部にも入ってるみたいで。足ケガしてテニスできないからって今日来たんだけどさ、それで衣装も手伝ってくれることになって」
「そうなんだ」
 瑠花が黙り込む。そして笑顔をうかべた。
「わたしも明日から衣装手伝うよ!」
「え? でも部活は……」
「ああ、そんな毎日でなくてもいいし。なんとでもなる。ずっとやらせちゃっててごめんね。悪いなって思ってたんだ。明日から希美はやらなくていいよ!」
 すぐに返事ができなかった。ふと思い出したのは小早川さんの言葉だった。
『やりたくてやるんだからさ、気にしないで。それにさ、わたしだってもらってるよ』
小早川さんはわたしから何をもらっていると思ってくれているのだろう。わたしは小早川さんからもらってばかりだと思っていた。でもきっとちがうんだ。それがなんなのかは分からない。分からなくてもいい。ただ明日からも一緒に過ごしたい。
「大丈夫だよ。もうすぐ終わりそうだから」

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