『誰』
斉藤高谷
(『白雪姫』)
森の奥で深い眠りから目覚めた〈あたし〉。王子のキスによるものかと思いきや、周りにいるのは七人のしもべだけ。一体誰がキスをしたのか。最悪の事態を考える〈あたし〉に、しもべたちが真相を語り出す。
『スクールライフ・イズ・ノットグッド』
ノリ・ケンゾウ
(『道化の華』太宰治)
オサムが学校を休み出してから、もう二週間が経っていた。とくに大きな怪我をしたのでも疾患にかかったわけでもなく、ただ体調不良という理由で学校を長く休んでいた。園ちゃんはもっと長い。一カ月も前から学校に来ていない。園ちゃんの絶望した顔が、オサムの頭の中から離れない。
『せめて別れ際だけでも美しく』
ノリ・ケンゾウ
(『列車』太宰治)
いつかはこんな日が来るのではないかとは思っていた。けれど二人でこの場所で、この土地で過ごした日々は、そんなことを忘れてしまうくらい潤しい、そして甘くて、何より幸福な時間が流れていた。オサムの乗った列車を見送りすべてを忘れる決心をしたが、列車のトラブルのせいでオサムが戻ってくる……
『逃避の行方』
小山ラム子
(『みにくいアヒルの子』)
自分の気持ちと周りが求めることのちがいに悩み、切り抜けるための術を身に着けていた薫。しかしそれが逃避であるということに気が付いたのは先輩の笑顔を見たときであった。
『Just fit』
垣内大
(『シンデレラ』)
お城の舞踏会にて王子様と運命的な出会いをしたのも束の間、午前零時に魔法が解けてしまうため、ガラスの靴を残して走り去ったシンデレラ。そんなシンデレラが王子様と再び出会い結ばれるまでの間には、もう一組のカップルが生まれていた。シンデレラと関係がありそうで、何ら関係のないお話。
『盗るが先か、死ぬが先か』
霜月透子
(『うさぎとかめ』)
男が空き巣に入ると、女が自殺をしようとしていた。殺人の濡れ衣を避けたい男は自殺の延期を提案するが、女は生きて窃盗を目撃した以上は通報するという。男の窃盗と女の自殺、どちらが先に成し遂げられるか。
『どこにもいかずにここにいる』
森な子
(『みにくいアヒルの子』)
カナメちゃんはいつも心ここにあらず、といった感じの、ぽやんとした女の子で、いわゆる“不登校”っていうやつだ。あたしは、週に何度かカナメちゃんの家に通って、プリントを届けたり、話を聞いたりしている。そんなある日、カナメちゃんが学校に来なくなった本当の理由を知ることになる。
『萌し』
夏迫杏
(『春は馬車に乗って』)
春高屋の花は命の花だ。まだ新薬が見つかっていない流行り病を治すことができる。花が癒さないのは、花を咲かせるために命を燃やした者だけ。流行り病と、ひとびとのために体躯に花を咲かせてきた姉の生の終焉が迫っていることを感じながら、春高はきょうも花の配達にむかう。
『君達に会うまでのファンタジー』
五条紀夫
(『桃太郎』)
眩い光と共に俺の目の前に現れたのは、大魔導士を名乗る少年だった。少年曰く異界から勇者を迎えに来たらしい。その勇者というのが俺なのだそうだ。異界での思い出に浸る少年と至って平凡な俺は、噛み合わない会話をしながら、まだ見ぬ未来へと歩み始める……。
『鬼のグレーテル』
みきゃっこ
(『ヘンゼルとグレーテル』)
節分の夜に母が急逝した。慌ただしく葬儀を終えていくなかでもその現実感は希薄だったが、火葬の終わった日の夜、兄が話し出した思い出はいつかの節分の話だった。豆撒きをしながら風呂に落ちた母と自分と、そのとき好きだったヘンゼルとグレーテルを思い出したわたしはようやく涙のひとつが落ちる。
『趣味の壁』
真銅ひろし
(『青ひげ』)
家族にずっと秘密にしていることがあった。何度も打ち明けようと思ったがどうしても言えなかった。自分から進んでその趣味を選んだわけじゃない。ただそうすることが快感で安心するのだ。けれど、否定されるのが怖くて誰にも言えない。そんな時、会社から地方への出張を言われる。
『スーサイドもしくはユアサイド』
もりまりこ
(『杜子春』)
休み時間のチャイムが鳴り始めると、転校生の十四春は廊下を急ぐ。休み時間って地獄だから。誰にもみつかりませんようにと願いながら。目的地は杜子先生が教えてくれた、裏学園伝説。保健室登校する生徒だけが知っているその伝説の銅像は、学園のぎり東にあった。冴えない銅像の隣には古い焼却炉が放置されていて。扉には南京錠が掛けられていた。