私は夢を見ていた。きらきらと光り輝く空を飛び回ったり、可愛い声で囀る小鳥たちと遊んだり、顔がぼんやりとした男性とダンスを踊ったり。男性は、私の耳元で愛の言葉を囁いてくれた。その甘い声が私の耳から心臓にかけて響くのがたまらなく心地よかった。
そんな幸せの真っ只中にいた私を夢から現実に引きずり戻したのは、小鳥たちの囀りでも男性の甘い声でもない、表通りの広場から聞こえる耳障りな喧騒だった。
ある土曜日の昼下がりのこと。せっかくの休日なのに何の予定もなかった私は、一日中寝て過ごそうと決めていた。普段は夢なんてあまり見ない方だが、今日は珍しくはっきりと、しかも最高に楽しい夢を見ていた。そんな夢のひと時がつい先ほど打ち壊されてしまった。これは、私の休日を潰したことに他ならない。私は怒りの形相を浮かべたまま、カーテンを開けて広場の方を窺った。
―――民衆の皆様、静粛にお聞きいただきたい!
がやがやとした喧騒を割って、張りがあってよく通る声が聞こえる。若々しさがありながら、どこか艶っぽさも感じる。いい声だ。男性のこういう声には目がない、もとい耳がない私だが、大事な休日の邪魔をされたとなると話は別だ。一つ文句を言ってやろうか、と私は玄関でサンダルを履き、外へ出て広場に向かった。
広場にはかなりの人数が集まっていた。どうやらこの町の人々のほとんどが集まっているようだ。人だかりのせいでなかなか前には進めない。
――昨晩、城で行われたダンスパーティーにて!
人をかき分けて広場が見える位置までなんとかたどり着いた私は、いい声の主を探した。広場の中央には豪勢な椅子があり、そこにはこの国の王子様が座っていた。その周りには兵士たちが数人配備されている。一体誰があのいい声の主なのか?王子様も、その隣にいる背が高くて色黒の兵士も喋っている様子はない。
……あっ、あの人だ!
―――よって、昨晩こちらのガラスの靴を落とされた方を!