小説

『夢が浮く、橋を渡る』行川優(『更級日記』『源氏物語』)

 三・一一後更新の止まったブログの一つとしてそのブログは掲示板の中で紹介されていました。掲示板では軽薄なコメントがずらずらと並び、論点のずれた議論が巻き起こっていました。しかしそのスレッドも一週間もすると無数のスレッドの中に埋もれ、しらっとした空気と共に忘れ去られていきました。
ただ、わたしは覚えていようと思いました。
この白々しい夏の風が全てを奪って行って、世界のみんなが美恵子と「わたし」のことを忘れてしまっても、わたしだけは覚えていようと思いました。
いつのまにか汗は引いていました。床から立ち上がってカーテンを開け、窓の外を見ると雨が降っていました。窓の向こう側には緑に点滅する信号機が雨に滲んでぼんやりと浮かんでいました。
 そうして、平成最後の夏は静かに幕を閉じてゆきました。

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