小説

『憑きびと』コジロム(『死神』)

相変わらず部屋に引きこもって勉強しては、気分転換にネットでSNSをのぞくだけ。

ぼくが見るのは、犯罪に関係するものが多い。
つい「憑きびと」を背負っている人の情報収集をしてしまうのだ。
ツイッターをチェックしてみる。今日の話題は朝から隣国のことでもちきりだ。
ずっと内乱が続いていたが、ついにクーデターが発生し、どうやら革命が成功したらしいのだ。
ツイートのほとんどが革命軍への称賛で占められている。
ユーチューブをチェックしてみる。まだくわしい動画は上がっていない。
続いて世界の主要なテレビ局を見てみる。そんなことができる無料ソフトがあるのだ。合法だとは思うけれど、よく分からない。
隣国の国旗をクリックする。さすがに混乱しているのか、それとも回線が混んでいるのか、何も映らない。次にアメリカ国旗をクリック。いくつかある局のうちの一つが、なんと隣国の中の様子をライブ映像で流していた。ドローンからの中継のようだ。
広大な広場のようなところに据え付けられた巨大スクリーンに党首の顔が映っている。これからは「元」をつけるべきかも。その若い「元」党首はものすごく興奮した様子でなにやらしゃべりまくっている。ということはまだ捕らえられていないのか。それとも革命軍の監視の下に放送させているのかも知れない。でもどう見ても降参しているようには見えない。
もういちどツイッターをチェックしてみる。
「元」党首の演説についてのツイートがいくつかヒットした。やっぱり降参ではなく、徹底抗戦を呼びかけているらしい。本人は要塞化された地下に潜っていて、そこから放送しているそうだ。
僕はダイニングに行ってみた。
母がテレビを観ていた。画面の端に「緊急中継」とテロップが出ている。
「革命だって。怖いね」言葉とは裏腹に、母はのんびりした口調だった。
うん、と僕は言って座った。
テレビには「元」党首の官邸が映っている。
まわり黒山の人だかりだ。
ところがテレビのキャスターが発した言葉はまったく意外なものだった。
「こちらが党首官邸です。ごらんのように現在、数十名の革命軍の兵士によって厳重に包囲されており、民間人は人っ子ひとり出歩いていない、というのが今の……」
何を言っているんだ。こんなに人が押し寄せているじゃないか。
待てよ。まさか、まさか……。
ぼくは立ち上がり、テレビの画面に顔を近づけ、食い入るように見てみた。
人、人、人の波。さっきよりも人口密度が濃くなったみたいだ。気のせいではないだろう。数え切れないほど多くの人が、「元」党首がいる場所へ向かっているのだ。
みんな下を向いている。大変なことが起きてしまった。いや、起きる前かも知れない。ぼくは部屋に走って行った。
もういちどネットでテレビ放送を観てみる。隣国の市街を映している局がいくつかあった。どの道にも多かれ少なかれ、人が歩いている。それが一方通行の決まりでもあるかのように、一方向に向かって歩いている。
これは隣国だけのことなのだろうか。

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