小説

『投げキッスの放物線』吉永大祐(『女生徒』)

 ラリーは続く。それはきっと、これからもずっと。たとえ心の中に忌まわしい感情が巣食ってしまって、どうにも抑えきれなくなったとしても、私は私の毎日を続けていくしかないのだ。

「じゃあ今度の土曜日にしよっか」
 晩ご飯を食べている最中だった。ママが突然私をドライブに誘ってきた。
「いいよ、無理しなくて」
「無理なんかじゃないわよ、私が行きたいんだもん」
「私、別に寂しくないから」
「もう、まだ怒ってるの?」
 ママが私を必要としてくれている。そして、やっぱり私にもママが必要なんだ。
「ごめんなさい、ママ」
 ママはそれ以上何も言わなかった。何も言わずにただ私をぎゅっと抱きしめた。私もママの気持ちに応えてあげなきゃいけない、初めてちゃんと、そう思った。
 ママが寝静まった後、私はそっと家を飛び出し、川縁の階段に向かった。階段は長いカーブを描いていて、コンサートステージのようになっている。
 私はその中心に立つ。もうあれからあの夢は見ていない。私は胸の中の見えない黒いバラを抱えながら、いつか訪れる幸せを願う。パパにも、お姉ちゃんにも、ママにも。そして私にも。時には、ふとした瞬間に、チョコミント星に逃げ込んでしまうこともあるかもしれない。それでも―。
 私はメガネをしっかりと目に押し当てて、くっきりとしたその視界の中で、今目に見えているもの、これから先に見えてくるもの、やがて見えなくなってしまうもの、すべてを愛そうと思う。
 そして、銀河に向かって、キスを投げた。

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