小説

『パパパパパ』藤井あやめ(『ちはやふる』)

妻はすっかりハンバーグの存在を忘れ、すいすいと箸を進めている。
久しぶりなのは天丼だけではなく、<三人揃っての夕食>もだった。
娘はモグモグと無言で天ぷらを口に運んでいる。携帯はソファーに転がしたままだ。
私は姿の見えない<あげみざわ>に勝った気がした。
やはりテンアゲだ。テンアゲなんだ!
黙々と食べる娘を横目に、香ばしい天丼に舌鼓を打つ。
「理紗、うまいか?また買ってくるからね。」
娘はジロリと私を見たが、微かに「うん。」と聞こえた。
気になる事ばかりだが、メールの件は黙っておこう。
私も娘に習い、天ぷらを掻き込んだ。
器で隠れた頬に熱いものが線を引く。少食の私もどうやら完食出来そうだ。少し、しょっぱい味がした。

「ごちそうさま!」
今、家族三人の腹の中には同じ幸せが詰まっている。
娘は食事を終えると早々にテレビを見始めた。全身タイツの若手芸人が、がやがやとトラックでどこかに運ばれている。
「お父さんも一緒に観ようかなぁ?」
気分を良くした私は、無視される覚悟で呟いてみた。
「…別にいいけど。」
娘はあっけなく返事をした。相変わらずまた携帯を片手に持っている。
私はそれでも嬉しかった。今度はタビでも買ってきてやるかな。私は娘の隣に腰を下ろした。
テレビから、私の代わりに大はしゃぎする芸人が次々に水に落とされていた。
フフっと娘が笑ったので、私もつられて笑う。

例のメールは、帰りの電車に乗る時には削除されていた。
恐らく、誤送信と言うことに気がついた娘が消してしまったのだろう。
謎のメッセージは、すでに私の携帯から一文字残らず姿を消した。
私は今でも気づかないふりをしている。
そして密かに願った。娘がまたメールを届けてくれる日が来ないかと。
誤送信でもいいから。

(いい波のってんね!てか、かみってる。昨日は特にあげみざわ。帰りタピってく?テンアゲー!)

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