小説

『パパパパパ』藤井あやめ(『ちはやふる』)

「謎が解けましたね、高山さん。」
「何でも聞いてください!」

私達は<父親>だ。
嫌われても、ウザいと言われても、小遣い目当てだったとしても、それでも私達は〈お父さん〉なんだ。私達は何も言わず、何度も大きく頷きあった。
何か、とてつもない大きな絆を感じた瞬間だった。

よし、今日は大奮発して大盛り天丼を買って帰るぞ!
私はふと、幼い娘の姿を思い出した。
おむつ姿でヨチヨチと歩きだした娘。
お風呂で初めて10まで数えることが出来た娘。
「おとうしゃーん。」と私に抱っこをせがむ娘…。
あげみざわなんぞに負けてたまるか。
幸運にも私の仕事は効率よく終わり、残業もなく速やかに終了した。
駅ビルで天丼を3つ購入し、いつもよりも早く家路に着く。

 
・自宅・

 
「ただいまー。」
リビングに入ると、携帯から一時も目を離さない娘がソファーで伸びている。
返事は特にない。
「まぁ、あなたお帰りなさい。早かったわね。あら、それなぁに?」
パタパタとキッチンから出てきたエプロン姿の妻を見て、私は痛恨のミスを犯したことに気づいた。妻はすでに夕飯の支度を済ませていたのだ。
「わ!天丼?でもどうしましょ。もう作っちゃったわ…。」
娘の目線が一瞬こちらに向いた。
「ごめんごめん。急に食べたくなっちゃってさ。」
娘は再び携帯に目を落としている。
「そうねぇ…。」
妻が支度の終わったテーブルを見ながら、渋々と考えていたその時だ。
「…いーよ。どっちも食べれば?」
娘がそう言い放った。
「そ、そうだな!お父さんお腹ペコペコだよ。どっちも食べちゃおう!」
私は娘が反応してくれたことがあまりに嬉しく、小学生のような返事をしてしまった。
妻は、少食の私らしからぬ大食い発言にケラケラと声をあげて笑う。
「も~。そんなに食べれないでしょ。折角だからハンバーグは明日にして、お父さんの買ってきてくれた天丼、温かいうちに食べましょ。」
妻が気転をきかせ、夕食は急遽ハンバーグから天丼になった。
妻は、「もっと早く言ってちょうだい」と文句を言ったが、その割にはとても嬉しそうだった。

私達は、<天ぷら揚げ>を軸に食卓についた。
「久しぶりに食べると美味しいわね。」

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