金太郎の真っ黒な瞳が光を受けてキラキラと輝く。
「ほら、今の世の中って冷たいっていうか、夢を語ったらバカにされるだろ?だから、せめて俺がおとぎ話の中で夢を叶える姿を見せて、希望を持てるようにしてやりたいんだ」
「金太郎……」
今時、こんなまっすぐな奴がいるなんて。桃太郎は自分の欲深さを恥じた。金太郎に比べたら、オレなんて童話の中でやっつけられる悪役と変わりない。いつの間にか、ヒーローとして大事なことを忘れていた。
「お前……」
金太郎に賞賛の言葉を述べようとして、ふと金太郎の輝きが増していることに気がついた。今や瞳だけでなく全身が光り輝いている。しかもその光が天から降り注いでいるせいで、縁起でもないシーンに見える。見れば、浦島太郎も真っ青な顔をしている。
金太郎、危ない、と言おうとしたまさにその時だった。今まで全く気配すら見せなかった巨大な熊が壁の向こうから現れ、毛むくじゃらな腕を金太郎に振りかざした。
「「金太郎――!」」
熊が腕をあげると、そこにはもう金太郎の姿はなかった。熊は満足したように唸り声を一つあげると、壁の向こう側へと消えていった。
「死亡フラグだ……」
桃太郎が呆然としていると、浦島太郎がポツリと呟いた。
「死亡フラグ?」
「あいつ言ってたろ、俺には夢があるとかなんとか。あんな突然語り出すから変だとは思ってたが、まさかこんな罠が仕掛けられてたなんてな……」
浦島太郎はゴクリと息を飲んだ。
「夢語り型死亡フラグだ」
「夢……何?」
「簡単に言うと、戦いの前に将来の夢とかを語り始めて死ぬ奴だよ。よくいるだろ、漫画とかに」
桃太郎は今まで読んできた漫画や小説を思い浮かべた。確かに、将来家庭を持ちたいとか、学校に行きたいとか、そういうことを言い出すやつは大体死んだ気がする。
「俺はこのゲームを甘く見ていた……これは、いかに死亡フラグを立てずに生き残るかの戦いだ」
死亡フラグを立てずに……。二人の間に緊張が走った。鼓動の音がうるさいほどに高まる。
俺は、この戦いから生きて帰れるだろうか。
「ステージ1クリア、おめでとうございます!」
出口のゲートをくぐると、司会の安出の明るい声に出迎えられた。
「桃太郎さんと浦島太郎さんで最後ですね。これで42名の方が、次のステージへの切符を手にされました」