「神様あんたニヤニヤしながらこっちを見てるんだろ救ってもくれないくせに腹立つぜまったく」
「なに急に、なに? どうした?」
混乱する「アリ」をよそに、一頻り烈しいリフを弾くと、「キリギリス」はやりきった顔で訊きました。
「こういうの、嫌い? なら、拳を握って悲しみに耐えるブルースにする? とりあえず殴るロックにする?」
「えぇ……、選べないよ、よくわからないし。大体、仕事の恨みなんて歌にしてどうするの」
「楽しい」
虚を、衝かれて、黙り込んだ「アリ」に、「キリギリス」は続けました。
「どうするもこうするもないよ、歌いたいことを歌うだけさ。何を歌おうが、歌はいつだって誰にだって寄り添ってくれる。だから僕は君の歌を歌うよ。君のための歌をね。それで楽しければ問題ないのさ」
僕の歌。僕のための歌。
それは本当に、楽しいのだろうか。
それはもしか、楽しいのかもしれない。
「さっきの歌の続きって、どんなんだい」
「アリ」の問いかけに、「キリギリス」は嬉しそうに続きを歌い出しました。さっきよりもさらに早口で、もはや何を言っているのかよくわかりませんでしたが、なんだかおかしくなって「アリ」はげらげら笑いました。笑えば笑うほど、憂鬱だった今日の出来事がばかばかしく思えて、笑いが込み上げてくるのでした。
その日から、「アリ」は休日の夜になると「キリギリス」の歌を聴きに行くようになりました。
今夜も「キリギリス」は、二本の腕でギターを弾き、残りの二本の腕でハンドクラップをしながら歌っています。内容は「アリ」の仕事の愚痴です。
「仕事って大変なんだねぇ……」
「キリギリス」が嘆息して言いました。
「仕事なんて楽しくないものなんだよ。働かない『キリギリス』にはわからないだろうけどね」
「楽しく仕事することはできないものなの?」
「楽しそうに仕事なんてしてたら、サボってると思われて事だよ。難しい顔をして、頑張り続けないと目をつけられるのさ」
「想像する限り、辛そうだなぁ。仕事を辞める『アリ』はいないの?」
「ほとんどの『アリ』は辞めないよ。楽しくなくてもやらないと他の皆が困るだろ。働かなくなる『アリ』は何割かいるけど、仕事は増えるし、働かない『アリ』の面倒まで看なきゃいけなくなるし、迷惑だよね。そういう病気らしいから、大っぴらには言えないけどさ」
「働かないと、病気なの?」
「もちろん。だって、皆、働いてるんだよ?」