まるで長い冬眠から目覚めたような、そんな気分――。
酷い頭痛の嵐の中、気がつくと彼女に馬乗りになられていた。しかも自分はパジャマを脱がされ、またまたトランクス一枚の格好だ。
(えーっ、そんなに君って積極的だったの? 体全体が痺れてるような感じだから上手く動けるか不安だけど、その気持ちは嬉しいな……)
女性からの積極的なアプローチを無にしてはならぬとばかり、彼女の唇に熱いチューをしようとしたそのときだった。
彼女の瞬速の平手打ちが、良平の頬に決まったのだ。
「うわっ、いってぇな……何すんだよ!」
「もう目が覚めちゃったの? あの薬、効き目が弱いのね……。それとも、分量を間違えたのかしら。仕方ないわね、それなら起きたままでいいわ」
「効き目? 分量? 起きたままで……いい?」
良平の全身を舐めるように見渡しながら、幸恵がちっと舌打ちをした。その音は、気温氷点下の湖の水面の如く、かちりと良平の心と体を凍らせた。
「あれ!? なんで絆創膏とか勝手に貼っちゃってんのよ。しかも、こんなにでかい奴……。仕方ないわね!」
身も心も固まりきった良平の両腕をがっちりと掴んだ幸恵が、思い切り息を吸いこんだ。元々そんなに豊かではない彼女の胸がぐんぐんと膨らんでいって良平好みのサイズと化したとき、一瞬、彼女の胸の動きが止まった。
(……?)
次の瞬間だった。
幸恵は、とても人間とは思えないほどの強い息を良平の肘にある絆創膏に向けて吐き出したのだ。
ゴオオォ!
その勢いでさっき貼ったばかりの絆創膏が剥がれ、大きなかさぶたを伴った傷が彼女の目の前に露わになった。
「ほほぉ! これよ、これ!」
髪を振り乱したその様子は、まるで山姥のよう。すかさず右肘の傷に手を伸ばし、ばりりとかさぶたを一気に剥がした。
「イテテテテッ!」
折角塞がった傷が再び裂け、そこから血が噴き出した。
それを見た幸恵が、狂喜乱舞する。大きなかさぶたをローテーブルの上に置き、そこにスマホカメラを向けてバシバシ写真を撮りまくる。
「いいわ! 良ちゃん、最高!」
すぐに写真をインスタにアップしようと、幸恵がスマホを操作する。その血走った目は、どう見てもあっちの世界にイっていた。
(やばい……殺されちゃうかも)