まるで、春に咲き誇る可憐な桜花――。
そんな笑顔とともに、幸恵はてんこ盛り状態の二皿のパスタをキッチンから運び、ベッド横のローテーブルの上に載せた。
もともと幸恵は良平のタイプの顔だ。
が、そんな笑顔と甘い声まで上乗せされて、良平は増々彼女のことが好きになってしまった。そして、先ほどまでの彼女に対する不審を心の中で深く詫びた。
すると彼女はもう一度キッチンに行き、二つのグラスを持って戻って来た。中身は黄緑色で市販の青汁のようにも見える。一瞬にして、不審な心が蘇る。
「あと、これはアタシの作ったスペシャルドリンクなんだけど飲んでみて。冷蔵庫にあった野菜、絞ってみたの。すっごい、美味しいから」
「……なんか、まずそうだな」
「何ですって―ッ! アタシの愛の詰まった液体が飲めないっていうの!?」
「え、液体? いえ、決してそういうことではなくてですね……。あーっ、美味しそう、いっただっきまーす!!」
良平は彼女の勢いに押されるようにごくごくとグラス半分ほどの緑の液体を飲み込むと、皿に盛られたケチャップ色のパスタをフォークで丸めてぐいぐい口に放り込んだ。正直、味は何が何だかわからない。当然、そこに愛が詰まっているかどうかもわからない。
「う、うまいなあ」
「ね、そうでしょ?」
猫撫で声の幸恵に、良平が大きく頷く。
幾つもの障害を乗り越え、遂にやって来た楽しい食事の時間。彼女の笑顔をスパイスに、良平の食欲はモリモリと進んだ。
ドリンクを八割ほど飲み終えた頃だったろうか。不意の眠気が良平を襲った。
確かに最近疲れてる、とは思う。それとも満腹になったせいかも……。はたまた、飲み物に何かが混ざっていたから……?
結局、急に重たくなった瞼をどうにもすることができなかった良平は、フォークを持ったまま、いきなりの深い眠りに落ちたのだった。
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