そのときだ。彼女が付き合ってから一番の、優しい目をしたのは。
彼の気持ちに、ほっこりとして温かい明かりが灯った。
「わかったわ、良平。でも……」
「でも……?」
幸恵の柔和な表情が、先程までかさぶたを追っかけていた時の鬼の形相に一瞬で変わった。
「でも……そのかさぶたをアタシに食べさせてくれたらね!」
「ヒイィィィッ!」
間髪を入れず、幸恵が良平に襲いかかった。
彼女の右手には、いつから持っていたのか小型のナイフがあった。
もう、良平には彼女に抗う力は残されていない。ナイフでバリバリと膝からかさぶたを剥がした幸恵が、目の前でそれをぱくりとやった。
「大好きって、食べる方の好物という意味だったんだね……」
もう、彼女に抗うことなんかしない。こんなことなら毎日怪我して彼女にかさぶたを思う存分、食べさせてあげよう――。
かさぶたを美味しそうに頬張る幸恵の姿を見ながら、そのとき新しい愛のカタチに目覚めた良平なのであった。