小説

『鈍い痛み』黒藪千代(『一寸法師』)

 所々白く光ったごま塩風の坊主頭に、小さい目。年の頃は50代後半。
 小さい人が、そのまま大きく、普通の人になって目の前に座っている。
 しかも白衣を着て、医者のような口ぶりで言う。心なしか甲高い声。
「か、痒みと、い、痛みが」
 辛うじて開いた喉の隙間から、絞り出すようにして答えると、小さくない普通の人は、無言でオレに背中を見せろと促すので、シャツを脱ぎ上半身裸の状態で背中を向けた。
「あぁ~あれだね、帯状疱疹!」
 指で首筋をツンツンとつつきながら言う。浴室で見た剣は持っていないらしく、太くて弾力のある指先を背中に感じた。
「た、たぃ?」
 聞いたこともない病名に、思わず振り返って声にする。
「水疱瘡の一種ねっ。お薬で治りますからねっ、大丈夫ねっ」
 やたらと(ねっ)を繰り返す変な喋り方で言う普通の人。いや、医者。
 小さい人は、確か関西弁だった。
 小さい人は、帯状疱疹?
 恐るべし、帯状疱疹。しかし、救いの神だった。

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