「・・・浮気してないか聞いただけ。」
そう、小さく呟く。あまりの非常識な行動に頭に血が上ってしまい少し声を荒げてしまった。
「どうしてそんな事をするんだ!」
「・・・。」
何も答えずにいる理沙にますます腹がたった。
「関係ない人を巻き込むのはやめてくれ!」
理沙はぐっと何かをこらえるように下を向く。
「心配するなら、携帯だろうが手帳だろうが、なんだって見せる。」
「・・・。」
「なにか言ってくれ。」
「・・・。」
理沙は何も言わなかった。じっと下を向き固まっていた。じっと黙ったまま時間だけが流れる。
「もうこんな事は2度としないでくれ。」
静寂の中、理沙は小さく呟いた。その姿に何も言う事が無くなってしまった。下を向いたままの理沙を残して自室に戻った。
机の椅子に座りながら気持ちを落ち着かせた。誰にでも嫉妬はある。自分にももちろんある。だけど最近の理沙は異常だ。結婚する前も心配症で他の女性に対してやきもちを焼く事は多かった。その事ですぐに落ち込み、その度に「大丈夫。」と安心させてきた。そして自分にとってその最大の安心が『結婚』だった。
「・・・。」
しかし、その『結婚』も彼女の安心にはつながらなかった。
理沙も大人なのだ、たぶん自分の中で何をしているのか分かっている。しかしその衝動を抑える事が出来ないのだろう。理性では分かっていても嫉妬や不安は言う事を聞いてはくれない。
「今何をしているのか?」
「何で連絡くれないんだ?」
「女といるんじゃないか?」
「私が嫌になったのか?」
「家に帰りたくないのか?」
「ちょっとくらい連絡出来るんじゃないのか?」
「私よりその女の方が好きなんじゃないのか?」
「女から言い寄って来てるのかもしれない。」
「誘いに断りきれなかったらどうするのだろう?」
止めよう止めようとしていても、想像は止まる事はなく、勝手に最悪の方に膨らんでいく。理沙は今その状態なのだ。こちらがすべてをさらけ出したところでその想像が止まる事はたぶんないのだろう。
ふと、自分の手を触ると薬指にはめられている結婚指輪が引っ掛かる。
「・・・。」