彼女が嫉妬深くなったのはあるきっかけからだった。同じ職場で働き、惹かれ合い、恋愛の後に結婚した。彼女はそのタイミングで仕事を辞めた。
同僚の土井が写真を見ながら眉間にしわを寄せている。
会社の帰りに喫茶店に付き合ってもらった。
「すごいな、これ。」
「かなり参ってる。」
土居は運ばれてきたコーヒーを一口飲む。
「興信所を使うのなんて信じられないよ。ちょっと引いた。」
「そんなに理沙ちゃんって嫉妬深かったっけ?」
「するはするけど、人並みだよ。だけどここ最近はちょっとな。」
「それで、どうすんの?」
「分かんない。どうしたらいい?」
「お前がやましい事してんじゃないの?」
「やめてくれよ。してる訳無いだろ。」
ニヤつきながら突っ込んできた土居の言葉に本気で反発した。
「ごめん、冗談だよ。」
「勘弁してよ。かなり参ってるんだから。」
それから、30分程度話を聞いてもらって店を出た。土居に何か解決策を考えてもらおうとは考えてはおらず、とにかくこの事を一人で抱え込むのは憂鬱過ぎたのだ。土居は別れ際に「必要なら俺が理沙ちゃんと話すよ。」と言ってくれた。あまり他人を巻き込みたくなかったがありがたかった。
自宅のマンションの手前で立ち止まる。ふと自分の部屋を見上げる。六階の一番端の部屋。電気がついている。
「・・・。」
本来なら安らぎの場所であるはずの自宅が今は憂鬱で仕方がない。
ドアの前で一呼吸をして咳払いをする。
「ただいま。」
いつも通りの音量と音程で声を出す。なぜ自分の家なのにこんなに気を使わなければいけないのか。
「おかえりなさい。」
リビングに入ると妻の理沙がちょうど夕飯の準備をしていた。いつもと変わらない雰囲気、を作っている感じだ。
「ご飯できたけど、食べる?」
「うん。ありがとう。」
そう言ってスーツを脱ぎに自室に行く。