それから、そのまま僕らはまぐわった。長いこと、毎日そうしていたかのように、当たり前の感じで僕らは体を重ねる。そんな最中でもあっちゃんは笑っている。笑いながら、少しずつ遠くにいくように思えた。
何度も、僕はあっちゃんに近づくように、腰を前に突き出す。そうする度に、あっちゃんは遠い遠い向こう側へと離れていってしまうようだった。何度もなんども、僕は腰を動かした。何度もなんども、何度もなんども。何かを楽しむわけでもなく、ただひたすらに腰を動かした。何度も、何度も、何度も。
下半身が濡れるが早いか、僕は掛け布団をガバッと傍にやって起き上がった。なんとも言えない青臭いにおいが、真っ暗な空間のなかで、確実に敷き布団の上に散らばっていることだけはわかった。
「うそだろ」と呟いたのは、その場にあっちゃんがいなかったことではなく、まさかこの歳で、息子がいるにも関わらず夢精をしてしまった自分自身に、非難を投げかけたかったからだ。
幸いにも、キョウコはアイジと一緒に別の部屋で寝ていた。僕は、自分自身の“それ”と向き合いながら、夢のことを思い出して、文字通り頭を抱え込んで凹んでいた。そんな夢を見て、キョウコにもアイジにも申し訳なかったし、そんな夢の登場人物となったあっちゃんにも申し訳なかったからだ。
すぐさまシーツを丸めて、僕は風呂場に向かう。シャワーからお湯がでてくるまでの間、ぼんやりとそのシーツを眺めながら、庵治石の肌のあの滑らかさを思い出していた。そうしてまた下半身部分が熱くなってくるのを感じ、どうしようもない野郎だと自分自身の頬を殴った。
シャワーからお湯が出て湯気が立ち込めると、ボディソープのポンプを何度もシーツに向けて押しかけ、足の裏で音を立てないようにドシドシと踏みつけた。泡ぶくが流れ、色々と流れ、排水溝のなかに吸い込まれていく“それ”を見て、ふぅとため息をついた。
そのまま、頭からシャワーをかける。目を瞑って耳を塞ぎ、自分自身の中の音に耳をすませた。ザーッと雨の降る音ばかりが聞こえてきて、そこには真っ暗な闇以外に何も見えることはなかった。
一番か二番かだなんて、なんだよそれ。キョウコがいて、アイジがいて、それがすべてだと思っていた。何に不満を持っているわけでもないし、あっちゃんが僕のことを本音でどう思っているのかなんて、分かりうるはずがないのだ。ましてや、わかったところで、僕にはどうしようとも考える勇気はなかった。
雨の降る音の向こう側、真っ暗闇の中にぼんやりとあっちゃんの笑顔が浮かんできた。それをあっちゃんだと認めると、僕は目を開けて現実に戻る。目の前には、汚れたような、ボディソープで綺麗になったような、中途半端でぐしゃぐしゃなシーツだけが転がっていた。
なんにもしていないはずなのに、バツが悪い気がしてならない。僕は期待しているだけなのだろうか?一番なのか、二番なのか、あっちゃんに問われることを待っているのだろうか。そして、それがもし仮に一番であったとしても、僕はキョウコもアイジも裏切るつもりはやはりない。しかも、それをあっちゃんが知ったとして、向こうもそうだとして、僕はどうこうしたいという気持ちなんてさらさらないのだから。