小説

『腫れ物地獄と純粋めいた愛』あざらし白書(『笠地蔵』)

でも、それは果たして本当だろうか?僕は、頭の左側ではそんなことを考えながらも、右側ではあっちゃんの気持ちを知ってみたいと思っていた。それを知ったとしたら?
僕は、もう一度目を閉じてシャワーを頭からかけた。暗闇は暗闇のままだった。その暗闇の中で、目が慣れて少しずつ足元が見えてくる。足元からずっと前に続く道は、やけに石ころが多くて躓きやすそうだ。でこぼこの分かれ道がたくさんある、グラグラとした足場。誰のせいでもなく、誰に迷惑をかけるでもなく、知らないうちに僕は、とんでもない道に足を踏み入れてしまっていた。

翌朝、いつものように仕事に出かけた。家を出る前にアイジを抱き上げると、胸の奥が少しだけズキンと痛む。僕はそこで少し恐ろしくなった。たった一夜にして、触らずともジクジクと痛む腫れ物のように、あっちゃんは僕の心に住み着いてしまったようだ。アイジはニコニコと「イッテラッシャイ」と僕に抱きついた。今度は痛むこともなく、僕は「いってきます」とアイジを強く抱きしめた。

おお、神よ。こんな日ぐらい、僕があなたのことを頼ったとしたって、それを罰当たりだと責めないでほしいな。これからどんなときにも、その火傷の跡のような腫れ物に、僕は心を乱され悩まされ続けるのだから。
だから、その火傷の跡を優しく指で辿ってくれないだろうか。そして、何を言うわけでもなくて、ただ僕の耳元で囁くように笑ってほしい。その庵治石の肌で、単にこの僕を包み込んで欲しいだけなんだ。

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