小説

『花咲か姉さん』黒髪桜(『花咲か爺』)

 僕はテレビに注視した。街路樹を見上げる人々。そして、画面いっぱいに桃色の花弁が映し出された。
「専門家は最近の異常気象が原因の可能性があるとしていますが、関東全域では無く、都内の一部地域にのみ咲いたということで、詳しい原因は分かっておらず・・・。」
 あぁ、他人には分かるまい。
 姉さんが咲っている。自然の摂理など気にならないほど、幸せなのですね。無理して咲ってはいないのですね。それなら、私も嬉しいです。
 テレビから体の向きを逸らして立ち上がり、窓を開けた。部屋には冷たい風と一緒に、粉雪が入り込んでくる。
 しんしんと降り続く白い花に、私は微笑まずにはいられなかった。

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