小説

『鬼の定義』藤井あやめ(『桃太郎』)

色とりどりの電光が、月夜を静寂から目覚めさせる。
雨上がりの街は水滴のベールを身に纏い、あらゆるものを反射した。

艶やかに湿ったコンクリートは街灯の光を吸い込み、あたかも自らが発電したかのように街を照らす。
暗がりに対抗し、立ち並ぶ店の電光掲示板が、ギラギラとさらに強い主張を始めた。
求める者は期待を胸に待ち続け、好まない者は蜘蛛の子を散らすように姿を消した。
皆、ピンク色の服を合言葉のように身に付けている。

突如、ブォンブォンと派手なエンジン音を鳴らしながら、闇の中から2つのライトが群衆を照らし出した。時折雨水のしぶきを立てながら、真っ直ぐピンクの群衆へ向かって来る。
人々はそれが何なのか、誰なのかを把握している。

モーゼが海を割るように道が開け、拍手が沸き起こる。歓声と言う名の雨が、再び街に降り始めた。闇から色を得たような黒い車体は、高級車のエンブレムを高らかに輝かせ、ある店の前で停車した。
群衆は車を取り囲み、主役の彼を待ち望む。
運転手の猿が、後部ドアに手をさっと手をかけた。
人々の待ち望む期待感が、辺りの空気さえ色を付ける。
全ての視線は一点に注がれた。

車体から桃のモチーフの付いた杖がカツンとコンクリートを打ちならし、ゆっくりと<彼>は姿を表した。
全身を淡いピンク色のスーツで身を固め、虎柄のショールを肩にかけている。
漆黒のフェルトハットで影になる表情は、隠しきれないほど優美なものだった。

午前12時

用意されていたクラッカーが<彼>を出迎えるように弾けた。
「ハッピーバースデー!」
割れんばかりの歓声と共に、彼は<Club Peach>へ入っていく。その後を追うように、ドレスアップした女子達が列をなして続いた。

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