小説

『花咲か姉さん』黒髪桜(『花咲か爺』)

 しかし、私は心配なのです。姉さんも私も、何かと気にしすぎる質ですから。

 東京での生活はどうですか。こっちとは違い、高いビルや沢山の人で辺りが埋め尽くされているのですよね。慣れない土地や環境で、きっと大変でしょう。
 大変、というと、我が家も少し慌ただしくなっています。工場の方は、吉澤さんの会社からの発注がひっきりなしに来るので、人手が足りないようです。嬉しい悲鳴だ、と父さんも言っていました。
 私はと言うと、和菓子修行を始めて3年目。ようやく、雑用や下準備以外も教えてもらえるようになってきました。最近は、練り切りというものを学んでいます。白餡を使って、四季の風物詩を形成するのですが、どうも上手くいきません。不細工な牡丹ばかり出来上がってしまいます。閉店後も試作を繰り返して、家に辿り着くのが夜中になることもしばしば。
 練り切りを学んでいると、姉さんが持つ不思議な力を羨ましく思うのです。いくら姉さんのように優しく微笑んでも、私の前に綺麗な花が咲くことはありません。辛くて、苦しくて、それでも何度も何度も挑戦して、ようやく綺麗な花を咲かせることができるようになるのだと思います。
 大切な人を幸せにするために、誰もが懸命に生きているのです。
 姉さん、咲って。世界で唯一の、その素敵な魔法は、周りの人を幸せにしてくれるのだから。
 もし、姉さんが心の底から笑うことができないのなら、どうか待っていてください。いつか私が素敵な花を咲かせて、姉さんに見せるから。
 いつでも帰って来てください、家族一同心待ちにしています。体調にはお気をつけて。
 敬具
 平成30年12月20日
 悟

 私は手紙を三つ折りにして、菫の種と共に、茶封筒に詰めた。

 それから三日経った、休日の朝。いつも通り六時ごろに目が覚めた僕は、寝間着のまま居間に座りこんだ。酷く冷え込んだ朝だ。窓には結露。その先では、灰のように細かい雪が、真白い世界を創りあげていた。
 手持無沙汰に思い、いつも通りテレビを点ける。ニュース番組では、ありふれた話題が飛び交う。外交問題やら芸能人のスキャンダル、俳優による映画の告知。
 何の気無しに、ぼんやりとそれらを眺めていた。
 「はい、それでは次の話題です。都内では、季節外れ、桜が狂い咲きです。」

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