「違いなんだし‼」
「なんか、京都はもっと優美だと思う。こののどかさは、奈良だよ」
「奈良なら鹿いなきゃいけないんじゃない」
「ってかインスタに上げてもわかんないっしょ。この風景」
「京都なぅ、つって」
「だから、奈良だって」
京都行きたいねぇ、と彼女が呟いた。
「なんで京都? 奈良じゃなくて」
「奈良行ったことない。いったことあるの」
「うん、修学旅行で行った」
「ふーん」
それから、急に思い出した中学校の修学旅行の話を彼女にした。彼女は笑ってくれたけど、どこか寂しそうな顔をしていた。そう言えば彼女は「私、高校時代はブスだったの」と前に言ったことがあった。「だって、あだ名ハリセンボンの春菜だったよ。廊下すれ違いざまに、『死ねブス』って言われたこともあったよ」
日が傾いてきた。夕日に照らされた新宿御苑に哀愁はない。むしろ威光を、胸を張って受ける王様のように、どこか仰々しい。
「たっくんはなんであたしのどこが好きなの」
「面白いとこ」
何それ、と彼女は笑った。
「あと、頑張ってること」
繋いだ彼女の手に力が入った。「あと、可愛いとこ」
半分は嘘だった。嘘というよりもこじつけだった。いつも女の人に聞かれて困る質問が、「あたしのどこが好きなの?」という質問だ。正直に答えれば、特にない。好きだから好きなのに。サッカーが好きなのに理由がいるのだろうか。筋トレが、ラーメンが、ドラクエが好きなのに理由がいるのだろうか。皆はただ何となく、特別好きなんじゃないのだろうか。
「いままでさ、この仕事してて辛かったことある?」
彼女は彼女代行サービスのバイトをしている。本業は大学生。
「うん。特にはないかな、あたしこの仕事好きだし」
「ふーん」
「本当にそうだよ。あたしね、辛かったらすぐ辞めちゃうの。でも一年続けてるもん」
「そっか」
「そうだよ」