どこか擦れたリサと、計画性の無いナツ。深夜に出歩く二人はちょっとした不運と思い付きのままに、潰れたコンビニへと向かうことになる。
「あ、ない」
ろくに車も通らない県道沿いの自販機の前でリサが言った。それは深夜の冷たい空気にひどく響いて、隣に座り、寒さに震える指でスマホをいじっていたナツの動きを止めた。蛍光色のプーマのジャージに上着を羽織った彼女は、少し驚いたように顔を上げる。
「どしたの」
「お金がない」
「私じゃあるまいし」
ナツがそう言っておかしそうに笑うと、リサはそうじゃなくて、と二つ折りの財布を大きく広げてみせる。自販機の明かりに浮かぶのは、血色の悪い樋口一葉の顔だった。
「そうじゃなくて、小銭がない」
ああそういうこと、とナツが立ち上がってそちらに目を向ける。
「入ってるじゃん」
自販機には百十円の赤い数字が光り、いくつか商品のランプも灯っている。
「温かいの、全部百三十円なんだって。ほら見てみ」
光っているランプの上の文字は、ことごとく寒々しい青い背景に「つめたーい」の文字だった。
「足下見てるね、年末年始特別料金、みたいな」
「ナツ、二十円持ってないの」
「持ってるわけないよ私なんだし」
「知ってた」
実際、リサは知っていた。隣にいる友人が万年金欠で、お金を手にしてもすぐに使い果たすだらしなさを。そして時には、何人か知り合いにいる関わりたくない種類の人間のように、平気な顔をして店のものを盗っていくことも。答え合わせとばかりに彼女が上着のポケットから財布を取りだして開くと、案の定中には数枚の一円玉とぐしゃぐしゃにつっこまれたクーポンやレシートしかなかった。
「逆にそんだけ使い切るのすごいよね」
「もうお金無いな、ってなったらギリギリ買えそうなの探すからね。さいごの晩餐。ムダがない」
「その使い方自体がムダなんだけど」
リサは「百十円」の表示とにらみ合ったままどこか誇らしそうな彼女には目もくれないで言うと、渋々冷たい缶コーヒーのボタンを押す。ガタン、という音が響いた。
「え、買うの。こんなくそ寒いのに」