小説

『コンビニエンス・プレイ』宮本一輝【「20」にまつわる物語】

 そう言って指し示した道の先は、夜の県道にふさわしくぽつぽつと規則的に街灯の光が並んでいる他には何も見えず、確かに数回行ったことがあるにも関わらず本当にこの先にあったのか、リサが不安になる程だった。
「そっちで買えばよかったかな。わざわざ冷たいのにしなくても」
「いや、潰れたよあれ」
「え、そうだっけ」
「年末にしれっと潰れた」
 彼女は何気なくそう言ったが、リサにとって自分たちの普段の行動圏から少し外れた場所のことを知っていたのは少しだけ意外だった。
「ねえ、あのコンビニ見に行ってみない?」
「行ってどうするの、それよかマックでも入ろうよ」
 野次馬でもしにいくような軽い調子で誘う彼女に比べてリサはあまり乗り気ではなかった。潰れたコンビニなんてこの辺りでは珍しいものでもなかったし、何より百十円を払ってまで冷やした身体は少しでも早く暖まりたいと言っていた。
「なんかね、鍵壊れてて頑張ったら入れるらしいの。面白そうじゃない?」
「怒られるよ」
「誰に?こんなくそ寒い夜にくそ田舎で、わざわざ潰れたコンビニ見守りにきた人に?」
「警察とかさ、そんなの来たらどうすんの」
「逃げたらいいじゃん、だいたい三重苦だよわざわざ来ないって」
 提案しているうちに気が乗ったのだろうか、どこか熱を帯びて主張する目の前の連れにリサは面倒くささを感じ始めていた。一瞬、放って帰ることも考えた。が、結局のところ考え無しに動く友人の横にたつのはいつものことであったし、見たことのない空間に興味がわかないでもなかった。不承不承といった調子でわかったよ、とコンビニがあったはずの方向へ歩き始めたときには、彼女もその答えがわかっていたかのように数歩先を歩いていた。
 街灯を頼りに二人は道を歩く。夜の底に縛られたように二人ともが黙ってしまった状況が気まずく、何か音楽でもかけようかとスマホを取り出し画面をつけたところで、ホーム画面をじっと見つめそれからもう一度指を立ててボタンを押し、消した。きっと鳴らしたとしても本当のところは何も変わらないだろうし、それに不穏なことをしにいくのにそれは些か不似合いに思えた。そのまま、寒さに震える手でスマホを上着のポケットに突っ込む。
「ほら、閉まってるよ」
 十数分ほど歩きたどり着いた、光を放つことがなくなったコンビニは周囲を休耕中の畑に囲まれてひっそりと佇んでいた。真冬では虫の音も無く、ぽつぽつと並ぶ街灯でコンビニ特有の形と木の板が当てられた入り口、その上に裏返された看板の赤色がうかがえるだけの様は、自分たちがいる場所のもはや取り返しのつかない、どうしようもなさを見せつけられているようだった。
「裏口からいけるらしいんだけど」

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