小説

『コンビニエンス・プレイ』宮本一輝【「20」にまつわる物語】

 独り言のよううに呟きながら駐車場を抜けてふらりと暗い建物の方へとナツの姿は消えていく。彼女が見えなくなってからも、しばらくの間リサは道路沿いに立ち尽くしていた。
 バカなことをしている、と思った。いつもそうだ。彼女がお金を使い果たすのも、それで平気な顔をして盗みを働いてみせるのも、そして今みたいに思いつきで行動するのも、それを傍らから眺めながらどうかしている、と思っていた。けれど結局のところ、彼女に振り回されるようにしてそれでもどこか他人事のままそれを見続けている。
――あの子は変わらない。
 声に出さないままそうやって口を動かして、それをきっかけがわりに既に見えなくなった連れの気配を追いかけていく。建物の裏では、ナツがスマホの小さな明かりを頼りに南京錠と格闘していた。裏口の扉の取っ手には鎖がかけられそれが壁面を伝う排水管に巻き付けられて、そこに大きな南京錠がかかっている。その錠前を彼女は細い針金のようなもので懸命に開けようとしていた。元々あった鍵は壊れてしまっているのか、それだけで扉はガタガタと揺れている。リサは呆れながら言った。
「何やってんの」
「鍵開けてる」
「見りゃわかるよ。ガチ犯罪じゃん」
 けれど彼女はそれを無視するかのように何も答えずに手元を動かし続ける。時折スマホを触り鍵開けを実践している動画を見ては、また作業に戻っていく。こうなってはもうリサは止める気も起きず、金属が触れ合う小さく耳障りな音を横に聞きながら建物にもたれ掛かり、すっかり冷え切った指先を少しでも暖めようと指を組み重ね擦り合わせた。
 数分ほどでカチン、と乾いた音がして鍵が開くと、ナツがやった、と小さく跳ねた。そのまま興奮を抑えきれないかのように勢いよく鎖を引き抜こうとするとガチャンと大きな音が響き、それにリサは身体をすくめる。今の音で誰かに気づかれてはいやしないだろうかと、建物の影から道路を見たもののそこには数分前と変わらず人ひとり、車一台となく、点々と続く街灯の光があるばかりだった。
 気が急いているのか、鎖を抜き取るのに苦戦し力任せにがちゃがちゃと鳴らしている彼女の姿を見ていたリサは、ふうと息を吐くと、一言「やるよ」とだけ言ってナツの手を掴んで鎖から離す。そして鎖の端を持ち大きくくるくると回して手に巻き取っていく。それまでの苦戦が嘘のように簡単に鎖が除かれると、もう一度彼女はぴょこんと落ち着かなく跳ねありがと、と短く言い残し扉を開いて中の闇へと消えていった。
 リサは手に巻き付いた重い鎖をしばらく眺めていたが、ちょっと首を傾げると扉の内側に、音が鳴らないよう努めて慎重に置いてそっと扉を閉める。おそらくはバックヤードであったはずのそこは、扉が閉じると明かり一つ残らない真っ暗闇だった。既に誰かが入り込んだことがあるのだとう、その空間には薄く煙草臭さが漂っている。リサはスマホを取り出すと、画面を点けてライトがわりに奥を照らす。見れば床には菓子のゴミや空き缶が散乱し、通路の奥ではナツがライトも点けないで壁に手を沿えてずんずん進んでいた。そして扉を開ける音が聞こえ、ほとんど間を開けずに「おお」という感嘆の声が狭い通路に響く。その声に引っ張られるようにしてリサもまた彼女のところまで歩いていくと、「おお」とまったく同じ声が出た。

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